TOKYO 2021 建築展「島京2021 課題」 (2019)
都市の前提が揺らぐ現代社会の変化を背景に、ポストオリンピック・パラリンピック=2021年以後の東京の都市状況を「東京=島京2021」をキーワードに考えたいと思います。建築の教育現場では建築家から架空の設定をもとに課題が出され、それに対して提案が制作されます。課題には時代性や出題者の建築観が盛り込まれます。今回は建築家である中山英之、藤村龍至が「東京=島京2021」の現状に対するオルタナティブを問う課題を作成し、“考える現場” としての建築展を提案します。参加者はプロジェクトメンバーとして総勢13名の建築家とともに展示期間の1ヶ月間を通じて制作と議論を続け、提案をまとめていきます。最後にはゲストを迎え討論を行い、来場者と共に東京の未来像について考えます。
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課題「島京2021」についてー中山英之
美術を学ぶ学生は、実社会で作家活動を行うアーティストとなんら変わらず、絵を描き、彫刻を彫り、映像を撮ります。一方建築を学ぶ学生は、建築家と同じように家を、美術館を、駅を、タワーを建てることはできません。
けれども、だからこそ建築教育の現場で出題される「課題」には、出題者自身の問題意識が反映されることになるし、そこへの応答として練り上げられた学生たちによる架空の設計図は、現実の都市を向こうに回した、あり得たかもしれないもうひとつの都市を、時に描きさえもするのです。
2021建築展とは、この建築「課題」の持つ想像力や批評性を、展覧会の形を借りて広く公開することで、私たちにとっての2021とは何かを問い、描き出そうとする試みです。
課題タイトルは島京2021(TOKYO2021)です。
大手町、日本橋、京橋、銀座、六本木、渋谷、品川、、、。
複数のエリア再開発が同時多発的に進行し、互いに競争を繰り広げる現在の東京を、エリア=島の集合体の都=「島京」と仮に呼んでみます。
この「島京」化へと連なる東京の近現代史を背景に、そこにもうひとつ、現在の「島京」への批評としての新たな「島」を構想することが、今回の課題です。
取り組むのは学生、社会人を問わず公募される複数のチーム。各チームは、議論を活性化するために選抜される若い世代の建築家と対話を重ねながら、案を練り上げて行きます。
それらのプロセスは、ゲストを招いた最終講評会まで全てが会場で進行し、そのまま公開されます。 課題とそこへの応答を通して、2020年のオリンピック・パラリンピックにピークを迎えるであろうこの「島京」化のその先の東京を問い直す試み。それはあるいは、島京/島国=東京/日本という入れ子構造を透かして、この国の「2021」を考えることでもあると言えるかもしれません。
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島の集まりとしての東京と、その将来像を考えるー藤村龍至
2020年のオリンピック・パラリンピックを控えたグローバル・シティ東京の近過去は、1990年代始めのバブル経済の崩壊による停滞と、2000年代の新しい政策「都市再生」による蘇生の20年であった。我が国の金融業や不動産業、建設業は、都市再生の名のもとに適用された大幅な規制緩和策のおかげで、かろうじてバブルの負の遺産がもたらす停滞から蘇生できたといっても過言ではない。
「都市再生」は、民間が資本を投じやすくするために、行政主導から民間主導へと都市政策の進め方を変えた。規制を緩和し、公共貢献の提案を求めることによって、民間が知恵を出し合ってプロジェクトのあり方を提案する内需拡大策であった。
1990年代までの東京では行政が主導して「多心型都市構造をつくる」という全体像の目標が示され、7つの副都心のひとつである臨海副都心では「アジアの国際金融センターをつくる」という役割が与えられていた。現在は大手町、日本橋、京橋、銀座、六本木、渋谷、品川というような、小さな地域の像が際立ち、さらに有名企業が六本木から渋谷へ、日本橋から大手町へというように地域から地域へと移転する、休日の買い物客を互いに集め合う、というように、有名企業の立地や集客を巡って地域間の競争が本格化した。
その結果、大都市としての東京の全体像は失われた代わりに、東京駅周辺の大丸有に対して渋谷が生活文化を強調し、日本橋が江戸からの歴史を強調し、というように小さな地域の個性が明確に打ち出されるようになった。
こうして東京は小さな地域=「島」の集合体の都=「島京」へと変容した。
東京における都市再生の総仕上げが2020年のオリンピック・パラリンピックである。これまでの都市再生は東京ミッドタウン、丸ビル、渋谷ストリームというように、地下鉄駅と直結した商業床の上に文化施設が入り、さらにオフィスが載った容積率1400%から1600%の新しい巨大建築をたくさん生んだ。これらの複合型巨大建築のあり方は、世界に例を見ない日本独自のものであり、戦後を通じて発展を続けてきた我が国の高度な建設技術によって支えられている。
しかし開発が進み事例が増えてくるに従い、差異化を競うはずのその建築の内容は、成功事例が生まれる度にそれらの模倣も見られるようになり、近い将来、似たようなテナント構成と公共貢献メニューによる、新たな均質化が始まることも懸念される。
そこで本プロジェクトではオリンピック・パラリンピック後の東京=「TOKYO2021」を考えるために、この20年で小さな地域の集合へと更新された東京の像を「島京」と読み替えるとともに、その将来像を考えるために以下のふたつの問いを立てる。
問1 これまでの「島京」を構成する島々の課題を定義し、新しい島の像をスケッチしなさい
問2 東京の湾岸に設定する敷地*に規制緩和による内需に応えるだけでもなく、インバウンドを始めとする外需に応えるだけでもない、新しい経済空間としての新しい「島」を設計し**、それをもってこれまでの島京を批評するとともに、将来の東京のあり方を描きなさい
*敷地は都市計画区域と港湾区域の境界に位置する臨海副都心の外周部にあるA地区とする。この埋立地はかつて7つの副都心のひとつに位置付けられたこともあったが、現在では交通の不便さから島状に孤立している。この島のあり方を考えることが東京の今後を考えることになる。
**なお、プロジェクトの規模は仮に3000億円程度とする。既存の有名な都市開発がどのような規模で実行されたのか、よく確かめること。
***グループ作業の進め方など詳細は当日指示する。
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ディレクション:中山英之
課題企画:藤村龍至
プロジェクトメンバー: 浅子佳英 / 成瀬友梨 / 西澤徹夫 / 藤原徹平 / 吉村靖孝 / 岩瀬諒子 / 木内俊克 / 常山未央 / 中村航 / 連勇太朗 企画アドバイザー 永山祐子
最終公開討論会ゲスト 青木淳 / 豊田啓介 / 中村佑子